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ジジイ流で読む
古典・コテン


伊勢物語・3733人斬り、業平の偉業?


浮かれ男の哀愁

 村はずれ、山にかかる荒れ地。夕暮れの冷気を含んだ風が吹き抜ける。男が一人、虚ろな表情で彷徨うように踏み跡を辿る。ふと、足を止めた。茶色味を帯びた髑髏が踏み跡を外れた石を枕のようにして鎮座している、肋骨から腰、大腿骨までがバラバラになって散らばっている。動物が食い散らかしてから長い時間が経過しているようだ。


Copilotで生成

 業平は前夜、夢を見た。色も、情景も記憶に無い。ただ、しゃがれた細い声だけが、記憶に残り、朝を迎えても耳の底に残っている。

「あなめ あなめ」

その声は業平に呼びかけているように思えた。導かれるように、無意識に業平は、声に向かって歩き始めた。そしてたどり着いたのが、髑髏の前だった。髑髏の片方の眼窩から1本のススキが伸びていて、弱い風に吹かれると揺れて、眼窩と擦れ合う音が”あなめ あなめ”と聞こえ、歌を詠んでいるように思えるのだった。

「小町さんかえ?」

 業平の呼びかけた髑髏は、小野小町の遺骸そのものだったが返事は無く、夢で聞こえた歌が耳の底でまたつぶやいた。上の句だった。

秋風の吹くにつけても あなめ あなめ

業平は悄然と佇んで、下の句を詠んだ。

小野とはいはじ 薄生ひけり

二人の歌が出来上がった。

秋風の吹くにつけても あなめ あなめ
         小野とはいはじ 薄生ひけり

 旅空に宿を取った業平が、付近に住む人に聞いたところ、小野小町が京からやってきて、息絶えた。その遺骸が野にある髑髏だといった。

 小町はのたれ死に?サーテ、多くの説があって、どういういきさつで東北に居たのか。京都の鳥辺山を待つまでも無く、平安時代頃までは、死骸を放置して月日が経ち、白骨になったところで葬る風習があったと聞く。風葬とでも言うのだろうか。1本のススキが眼窩から伸び、秋風に揺れていたとしても、必ずしも“投げ捨てられた”と考えることはないようだ。

今の日本にこうした風習は残っていないが、投げ込み寺、と伝えられる寺は、まだかなりその言い伝えを残している。モンゴルでは鳥葬(動物葬?)が残っている。ある地方を旅したとき、老人に聴いた。

「荷車に載せて遺体を草原に連れて行くの。幾つかの丘を越えていくうちに、遺体はずれて、荷車から落ちる。そこが墓所だよ。何日か、何ヶ月かあとになると、遺体は無いよ」

連れ合いを数年前に亡くしたと言う老女に聴いた話だ。日本語が達者な同行した男も、鳥葬というのか“荒野葬”のようなモノの存在を認めていた。

 オオカミなのか猛禽類なのか-。綺麗さっぱりと痕跡は消える。人々は「天に召された」と考える。荒野に置かれた?小町が、いつしか髑髏の眼窩からススキが生えても、平安の昔、人口も少なかった背景を思うと、ちょっと侘しくはあるが、妙に華やかに葬られ、総時間も経たないうちに、訪れる人もl絶えるよりも、しっくりと自然にとけ込んで行く最期は、味わいが有り、厳かに受け入れられていたような気もする。

余計な感傷はこの際、役立たず、“だわナ”。それより業平の達者振りだった。

西にカサノバ、東は業平-。

 東西・色事師を思うと、西に“カサノーバ”。東には“業平朝臣?”であろうかな。
名高い色事師を探すと、この二人の名が挙がろうというもの。他にも辣腕は居るが、ワシャ、この二人が「好き者の粋を尽くしておる」と思うでナ。

 運河を行き来するゴンドラで名高いベネチア生まれの“カサノーバ!”。カサノバと書くより、ちょいーで伸ばした発音が似合う。プロレスのリンクアナ風だけどな。今じゃ政治を語る古舘さんよ。


 この男がが“落とした”女は1000人とあった。なーんだ。それだけかよ。我ら在原業平は3733人と何かに書いてあったぞ。正確な数字?分からん。二人とも帳面に書き残してなかったなー。カサノバの千人は如何にもおおざっぱだが、業平は細かすぎ、数も多すぎて信じ難い。そうでしょ。毎日“ものにした”と仮定しても10年休みなし。毎日だぜ。毎日いたす。それでも間に合わん。ダイジョブか?

 
 祖父は平城天皇、恒武天皇の長男で、父は皇位を引き継がなかったが、阿保親王。れっきとした皇族だった。母方も藤原種継を祖先にもつ平安貴族。宮廷内でも地位は高い。好き勝手の振る舞いを面と向かって咎める人はごく、ごく少ない。


新潮日本古典集成から

 しかし、やってくれます。後に清和天皇更衣、陽成天皇の母となる藤原長良の娘、高子と業平の“恋”は貴族社会には知られていたとある。しかし、それが成就する可能性は貴族間の情報からは「至難」だったらしい。勝手人間、業平はまだ嫁ぐ前に惚れ込んだ高子に当時は高価だったヒジキを贈り、こんな歌を添えている。

思ひあらば 葎(むぐら)の宿に寝もしなむ
        ヒジキものには袖をしつつも


(私を思う気持ちがあるなら ムグラの生える粗末な宿に共寝して欲しい ヒジキ藻(引敷物の例え=夜具)は着物の袖でいいじゃない。)

 やりますねー。相手はまだ独身とは言え、ドライな現代のギャルでも、真っ当なら尻込みしす。直球162㌔、大谷翔平、ズバッといこうー、と言うところですか。葎(むぐら)はどこでも生える雑草で、花弁の部分にトゲと粘りが有り、べたべたくっつく始末の悪い草。色々と連想させる歌ですなー。返歌を期待してページをめくりましたが、アーリマせん。

担いで遁走、やるもんだ

 返歌は無い。逢瀬は妨げられる。 しかし、業平は簡単にあきらめるような男ではない。清和天皇の更衣となる話は決まっていて逢瀬はほぼ断ち切られながら、一計を案じ、密かに通う。

人しれぬわが通い路の関守は
        よひよひごとにうちも寝ななむ

 いずれ二条の妃なるべく、藤原家が大切に育てているお人の元に業平は忍んで行くのだと分かる。もちろん女が寝泊まりしている清和天皇の祖母はこれに気づき、通ってくる道-、崩れた土塀の付近に見張りを置いた。業平がそれを嘆いた歌が上のもの。二条の邸宅に業平が通うのが世間に知られ始めた。高子の兄、国経、基経も見張りを置くことを進言し、崩れた土塀から忍び込む道は断たれてしまった。

普通なら無念であってもこの辺りであきらめるだろうが、ニッポン最古で最強の“ドンファン”いや・いや、これじゃ不足の”コマシ王・業平”は、恐るべき手段に出る。口説き続け、相手も悪くはない気持ちがあったのだろう。ある夜、伊勢物語の表現を借りれば「かろうじて盗みいでて」月も星も無く、暗い夜道を、引っ担いで遁走した。芥川(今の高槻市)を渡ったところで一休み。草に玉となっている露を見て、女は「これは何なの」と聞く。


駆け落ちはいいけど、高子の外出は輿か牛車。ろくに歩けず背負われての逃避行

 この大それた逃避行の最中、露の玉を見て普通の女が、こんな言葉を…、あり得ない。藤原家が天皇に嫁がせることを夢見て、大切に育てた“深窓の美女”ともなると、フランス王妃のマリーアントワネットが、ギロチンにかけられても、何が自分の身に起こっているのか分からず、笑っていた-、などと伝えられるのと、似たような心理だったと思うしかない。
 業平はあばら家を見つけ、奥へ高子を押し込む。そして弓を持ち、入り口に陣取って、ツルを鳴らし、悪霊払いをしながら周囲を監視したが、あばら家の内部にも“鬼”がいる事を見落としていた。

 二人の兄は破れ戸から侵入。高子を連れ出した。その時彼女は声を挙げたが、天候は悪化していて雷鳴が轟く中。叫びは業平に届かず、ようやく曙にかかる頃、様子を見に中へ入った業平はy、高子の居ないことに気づき、地団駄踏んで悔しがっても詮無いことだった。良く出来た話で、こんな歌も添えられている。

白玉か何ぞと人の問ひしとき
        露とこたえて 消えなましものを

(高子が)これはなに、白玉か何かなの、と聞いたときに、露の玉だよ、と言って
消えてしまったら良かったかな)

後世の作り話という説もある。そうだとしても、良く出来た話で楽しませてくれる。

「フザケやがって」

「この放蕩男。ワシらは好きなようにはさせんぞ」

二人の兄が”鬼”だった。



めげぬ業平  この頭で何百人?


Copilot

「高子とはもう会えないようにしてやったぞ」

「その頭で外を歩けるか。御殿へ上がれるか」

 二人の兄は“お仕置き”を兼ねて、業平の髻をスパッと切り落とし、頭を剃り上げた。寺院で経を読む僧侶ならともかく、貴族社会でも身分の高い業平が、ツルンとした頭で都大路を歩く訳にはいかない。さすがの業平も、しばらくは邸宅に引きこもるほかはなかった。

 好き者の業平がじっとしている訳はない。叔父さんに当たる人物が天皇なのだ。父親が皇位を放棄していても、周囲は業平の父が「在原姓を名乗る」ことになった経緯も承知しているのだ。業平のやりたい放題や藤原高子との関係も貴族社会の中での暗黙の了解を背景にしてこそ、成り立っていたと言えよう。

面倒な話は止め。業平は家を出る。出ると言っても旅をするので家を空ける程度の気持ちだ。

東下り

「この頭じゃ、京には居にくい。顔を知られていない東国へでも行くか。毛の生えそろうまで…」

 業平朝臣は自分で決めて、東国への旅へ足を踏み出した。今の濃尾平野付近では「川が多いな」などとほざき、富士山が見えると「雪があるなー」なんて歌を作りながらの東国行。何とも気楽な旅の御様子。

唐衣きつつなれにしつましあれば
         はるばるきぬる旅をしぞ思ふ

(着慣れた唐衣のように沿い慣れた妻は都に居るからはるばると旅してきたと思うよ)

昼飯を食いながらこの歌を披露したら、お付きの者どもは涙した-、ダト。

 フザケてないか?普段着のような妻が京で留守番している事を歌にして、「思えば遠くへ来たもんだ」は無いだろう。お付きのものが居るようで、その連中は涙した、とあるぞ。頭を丸められたのは、道ならぬ恋、の仕業だろうよ。遠くへ来たと言ってもまだ序の口。泣きたいのは残された妻の方で、お付きの連中はなんの涙なんだ?だいたいお付きの者が居るのは常識外れ-。
オットット、業平朝臣の身分なら当時の社会常識なのか。こっちが泣きだぜ。

 
女漁り無しに夜も日も無しの業平は、お付きの女までも侍らせての
旅。「富士山の雪が綺麗」ダト。 しかも馬に乗っての旅だ。ふざけんな!


 そういう訳で雪の残る富士山を眺め、武蔵の国と下総の国の境にある角田川(すみだかわ=隅田川)の渡しでは都鳥で一席。まさに物見遊山の旅じゃ!あー、業平の癖はむくむくと膨らむ。川を渡ってちょい歩き、今の埼玉・入間郡の板戸町、当時はみよしのの里と言われるところで“女を夜這いけり”だと。先生方は「よばふ」は男女の求愛。後世では「夜這ふ」などと書かれるようになったそうです。

 笑うな。言ってみれば先生方はきれい事。「夜這い」はヨバイ。通い婚の時代は男が女を訪ねるのが普通だったが、嫁入りに変化してからは、男が女の基を夜な夜な訪れるのは、いつのまにか”不謹慎”となっていった。しかし、ここでの夜這いは女の家があるとは言え、婚姻とはまるで関係無い。何しろ業平は都の男で有り、夜這いをかける女は、今なら埼玉・入間に住んでいるのだ。ここは、センセ方がなんと言おうと、誰でも知ってる「よ・ば・い」なのだ。みよしのの里での出来事をもうちょっと言おう。

 業平が夜這いを仕掛けようとしたのは若い女。父は地元民だが、母は藤原氏の出身だった。伊勢物語十段の話。最初に見初めたのは娘でだが、京にゆかりの母親が熱を上げたので、そちらに“乗り替え”たようだった。娘のはずがその母とは…。達者やのー。反省など、あーりません。

 「愛するとはどういうことなのか、を現代人にも鋭く問いかけてくる話」として、125段を例に挙げて論じている先生の話も読んだが、フムフム、そうで御座いますか、よろしじゃ御座いませんかー。こういうことになります。この物語は読む人、その人の辿ってきた道などで、どうにでも読めるところがワシャ気にいっとる。当人たちが深刻でも、傍から見ると変哲も無い出来事かもl知れない。だから勝手に論ずるのは自由。解釈もかなり自由。だからこそ、なじみの薄い歌を中心に構成されていても、あまり違和感は無いのだろう。
 
 ちょっと急ごうかね。男女の話が続くから、こりゃキリも果ても、あーりません。大まじめなセンセが、どう解釈するか、いたずら心にほだされて、三十七段に戻ってみましょう。分かりやすいので直球を投げます。

むかし、男、色ごのみなりける女にあへりけり。うしろめたくや思ひけむ(女は色好みなので、心配が絶えない)。

我ならで下紐とくな朝顔の
      夕かげ待たぬ花にはありとも

(私のためではないなら下紐を解くな 朝顔は夕暮れを待たずにしおれてしまう花だけど)

女の返し歌

ふたりして結びし紐をひとりして
      あひ見るまではとかじとぞ思ふ


(あなたと二人で結んだ紐をまた逢うまでに一人で解くようなことはしたくないと思います)

 これだよ!下紐ってなんだ?なんて聞くの?そりゃカマトトっていうもんだ。伊勢物語の真髄は、この辺りにあるんじゃないの。高貴なお方の御葬(おんほふり)などに絡むと、さすがに神妙ではあるが、葬儀を見るのを口実に男が女車に乗り込んだり、女車と知って寄り添ってきて、懸想の素振りを見せる不届き者が居たり…。.
 


 場所をわきまえろ、などというが若い貴族の男どもは「わかっちゃいるけど」目先の女車には負けるようで、蛍を女車に投げ入れた男が居る。青黄色に光るあの蛍なので害は無い。車の中の女は、万事承知で、投げ込まれたのが蛍と分かっているのに“キャー”、とか騒ぐ。ここからが男が本領発揮。

 「火だ、火だ。消さないと危ない」

「御免よ。火消しだ。オッと触る気は無かった」。

などとほざいて、なんと男子禁制の女車に乗り込んでくる男は、火消しを理由に嬉しそうに狭い車内で「はい・タッチ」とは何事だ。こういうの、面白くないか?面白い。
 大まじめの文章の中に紛れ込んでいるから、なお楽しい。蛍を投げ込み「消さないといけない」なんて言うのは、傑作だぜ。女も当然“嬉しがる”話。牛車だと牛方のオッサンも
ニヤニヤ笑って牛を追うのが目に見える。

 貴族社会ばかりではなく、その取り巻き、さらは庶民階級まで、さまざまな機会を捉えて、色事を楽しむのを忘れなかった、日本の古代、平安時代を忌憚なく、色濃く表現しているように思うのだ。

 「難しいことはわんさとあるが、生きてる間は、楽しもうぜ」の精神が、際ど性的な誘い合いや、生活の中の楽しみを赤裸々には描けないけれど、歌の世界を借りることで、大っぴらに楽しみ、遊ぶ-。その辺りこそ伊勢物語の面白さ、醍醐味だと思う。どうだろうなー。どっちでも良いか。

業平の恋歌こそが物語り


京都国立博物館
歌ばかりをボコボコ並べ、時に時代や場所は飛んでっちゃう。何だか分からずに拾い読みしても、こりゃなんじゃ、
と呟きながら、ニヤリと出来るありがたさ。百人一首すらろくに知らなくても、こっちの方は分かります。何しろ好き者を“掘り起こす物語”なんだよ。「伊勢物語、私、大好き」という女が居たら、そこはもうお分かりでしょうね。謎解きにもならんわ。

 業平は東を旅しているはずだったが、物語とは言いながら京に留まっている感覚だったり、さて、どこの話かな、と聞くだけ野暮でもあるのです。

 業平の恋歌、その枝は八方に延びて、どこまでが正気で、どこからが夢・幻なのか、分かろうとする方に無理がある。古今の偉い学者先生が、知恵を絞っての解説も、ジジ流に解釈すると、あまり深掘りせずに、あっさり考えてみな、となる。これが宜しい、とは決めないが…。

むかし、男ありけり。

いいねー。今 男ありけり。ン?

 あんたのことですよ。業平と一緒に旅をすると思うのはいいなー。押しつけじゃ無くて、こっち側で推測することが多いから、そりゃ楽しいよ。なーに、難しくはない。その秘訣?教えますよ。

「分からない所は読まない。分かるところだけ辿る」

これでOK。二度三度と読めば“意・自ずから通ず”は、業平朝臣の霊力かな。

 物語は百二十五段まであるが、次第に奔放な恋は退き始め、九十段になると、オヤオヤ、女殺しだったはずなのに、女の返答を怖々と待つ姿がちらりとよぎる。昔、つれなかった人と再会。なんとかしたいなー、と思って言い寄ると「明日、お話しするだけなら…」 の返答。こりゃいけますわ、で男は早速、歌を贈る。

さくら花今日こそかくもにほふとも
      あな頼みがたあすの夜のこと


(さくらの花は今日、咲き誇り匂うばかりだが、と言っているけど、明日の夜のlことは分からないね)

弱々しくなったなー、業平君。さくらは散ってもあなたはまだまだ、散れないんでしょ。

♪枯れ葉よー、オー・シャンソン、と来らー

終わりよければ全て良し

 東下り、東北巡りは業平にとって最大の足を使った旅だった(馬に乗って、従者も居たようだぜ)。多くの体験と、楽しみを味わって京に戻った業平は、もとの貴族生活に入った。かつて恋仲で有り“引っ担ぎ婚”(こんなのあるか?)の相手でもあった高子は清和天皇の更衣となり、男子も出産していた。ただ、業平のもう1つの“歌の旅”は疲れを知らず、旺盛な制作が続いていた。異なるところと言えば、歌を贈る相手が減り、歳を重ね、溌剌とした精力、気色、さらにはお互いを引きつけ合う、色香が表から姿を消したことだろう。

 馬場で訓練の日、向かい側に停まっていた車に女の顔が簾の下の薄い幕の奥に見えた。業平は例によって歌を贈った。

見ずもあらず見もせぬ人の恋しくは
       あやなく今日やながめ暮らさん

(見ないとも言えず、見たとも言えない人が恋しい今日は、やることもなくぼんやりくらすのかな)

返歌

知る知らぬ何かあやなく別(わ)きていはむ
思いのみこそしるべなりけれ


(知っているとかしらないとかどうして分けて言うのでしょう。=恋の道は=思い、だけが道しるべなのよ)

驚異の色事師・業平、女に諭させられるかー。九十九段のやり取りです。

 歌もギラリとした切れ味は隠れ、穏やかで味わいのあるものに変わってきている。男・業平は辿って来た人生を何げなく回想する。そして、ある女は業平を平然と突き放す歌を詠む。

白露は消えななむ消えずとて
       玉にぬくべき人もあらじを


(白露は消えるなら消えればいい。消えないからそれを玉として、ひもでつなぎ合わせてくれるひとも居ないでしょう。)

 キツーイひと言。業平を白露に例え、私があなたを助ける(または惹かれる)ことはありません-。と宣言。胸ぐらを突いて“あっちへ行け”みたいな口調。この姫がどこの誰とは書かれていないが、ワシャ、高子さんじゃないかと考えるな。引っ担いで駆け落ちした雷鳴の夜は、遙か昔。業平は夢なのか、現実なのかの区別もつかない。
そして、歌のl旅、心の旅は、東下りの若き日に戻る。

荒野に髑髏が一つ。ススキが眼窩から1本、宙天に向かって延びる。

「あなめ あなめ」

耳の底で声が聞こえる。たった一人、荒野にうち捨てられたような、小町の髑髏。
 業平が蘇ったら

夢見る男・業平は荒野に一人立ちつくした。秋。薄がそよぎ、弱い太陽が業平をそっと包むように…。ふと宙空に動くものを見たように感じた。淡いキリの固まりのように見えたが、それはすぐ意識の中から消えた。薄の穂を千切ってぼんやりと佇んでいると、再び淡い固まりが見え、今度は消え去らずに次第にはっきりしてきた。

「小町か?」

懐かしさがこみ上げてきた。業平は思わず呟いた。若く、美しい小町だったが、薄く透き通ったような感じだった。

「ひさし振りだなー、小町」

返事は無かったが、ほほえんだように見えた」

業平は手をさしのべようと一歩踏み出した。音も、声もl無く、小町は白い霧のような固まりとなって、虚空に消えていった。




ふと、現実に引き戻された業平は、もう習慣であり、生活の一部になりきっている歌を詠んだ。

つひにゆく道とはかねて聞きしかど
      きのふ今日とは思はざりしを



歌を書き付けた短冊の脇には、こんな文が添えてあった。

むかし、男、わづらひて、心地死ぬべくおぼえければ

終わり